あなたは「アライ」ですか?いいえ、違います。

聞き慣れない言葉、アライ。
街頭で唐突に「あなたはアライですか?」と、100人に向けてインタビューをしても、きっと「Yes/No」という有効回答は得られないだろう。ついつい「いいえ、タナカです。」「ちがいます。スズキです。」というオチを想像してしまう。しかも、イントネーションが、いわゆる「荒井」や「新井」ではなく、「ラ」の上にあるので、日本語を覚えたての外国人が質問したような雑多な感じも否めない。僕自身も、LGBTという存在・概念、またはその生き方に出会っていなければ、近々では知ることのなかった言葉のひとつだ。

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Google翻訳(Google Translate)や、エキサイト(Excite)翻訳 で調べてみると「同盟国」と訳される。うーん、なんだか違和感が残る。そこで、Weblio でさらに掘り下げてみると、【動】「と同盟する/と同盟を結ぶ/と提携する/を類属させる/に結びつける」【名】「同盟国/同盟者/盟友/味方」などの言葉が並び、なんとなく「友好的」というニュアンスを含み持っていると仮定できそうだ。同盟などという硬派な括りではなく「友好的な仲間、味方」ぐらいの表現に落とし込むことも可能だろう。また、個人的に馴染みのある言葉でもあり、ビジネスシーンでもよく使われる「アライアンス(alliance)」という表現は、「アライ」の語源にあたるらしく、そう考えると、言葉自体が急に身近になってくる。つまり、お互いに「緩やかな協力体制」を築き、「相互利益」を得ましょうというような発想に落ち着く。

 

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そもそも、LGBTフレンドリーな人や集団を指し示す言葉として「アライ(Ally)」という表現が用いられるのが一般的だ。欧米諸国(理解という意味において圧倒的にLGBT先進国)では当たり前のように使われる言葉で、グローバル・スタンダードを追随する構えである日本のLGBT当事者、もしくは、その周辺から、この表現がそのままフォローされたというのが定石なのだろう。いずれにしても、LGBT当事者が求める権利、社会、スタンダードを得るために活動している場合、それらに対して支援、協力してくれる非当事者、もしくはその集団のことを示し「アライ」と定義しているのだろう。

 

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さて、僕の中に克服し得ない疑問が2つある。
まず、LGBT当事者に対して「友好的な仲間(味方)なので、緩やかに協力体制を築き、相互利益を得ていきましょう」とする場合、どんなプロセスにプライオリティがあるのでしょうか?


A:理解しているが(時間、お金など余裕の観点から)何もできない場合。/B:理解しているので、遠くからそっと応援する場合。/C:理解しているから、応援しているし、支援もできる場合。/D:理解はしないけど、お金なら出すよ。応援している体裁の方がメリットになると思う場合。

純粋に「LGBT当事者を理解し、できる範囲で支援協力していきたい」という範囲内で語れるのであれば、個人的には、どうしても「アライ」の発展プロセスに、欺瞞というか、偽善めいたものを感じずにいられないのだ。対等な関係でありながらも、非当事者としてのエゴに近い感覚が、支援する気持ちを押し隠す側面も少なからず存在していると思うのは考え過ぎだろうか。この部分の裁量はLGBT当事者しか持ち得ないと僕は思っている。何かを得るために、いずれ非当事者95%の理解が必要になる。この理解の部分を「アライ」と括るならば、それはそれで大袈裟な事案である。当事者に同調して声を発することと、偽善者だと感じることをイコールにはしたくない。

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次に、「アライ」という言葉に上記のような意味がある場合、セクシャル・マイノリティの呼称「LGBT」に限らず、マイノリティとされるセグメント(社会的少数者 - Wikipedia : 新興宗教や各社会における少数派宗教とその信者/障害者/ホームレス/アイヌなどの少数民族/在日外国人/同和地区出身者/エイズハンセン病患者/婚外子など)に向けて同じ発想は持ち得ないのだろうか?これは、言葉のレンジという観点だ。つまり、大袈裟である言葉の概念を越えて、支援者、理解者程度の発想ではいけないのか?という疑問だ。対マイノリティに向けて支援や協力、そして、理解を示す時、もうアングラに息を潜めることなく、公に支援を表明できる時代だ。大事なのは、支援を必要としている側の立場を理解し、そこに向けて自分自身にできることは何なのかを考えることであると思う。

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以前、ここに書いた (少しだけ、僕のことを語りましょうか。 - 多様性について語る時、僕は君になりたい。)ポストに付随しますが、「あなたはアライですか?」と問われた時、僕は「いいえ」と答えるでしょう。なぜなら「アライ」か否かは、僕が決めることではなく、それを求める人達が決めることだと思うからです。言葉としての装飾を纏う前に、その気持ちをいかに体現していくかが非常に重要だと、僕は考えています。仲間であり、友達。今は、それで十分だ。

LGBTQってなに?―セクシュアル・マイノリティのためのハンドブック―

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